2020年8月7日August 7, 2020


当宇宙物理学研究室の徳田一起 客員研究員と名古屋大学 立原研悟准教授らによるアルマ望遠鏡を用いた分子雲コア(星の卵)の観測成果がプレスリリースされました

概要

 当研究室の徳田一起 客員研究員(兼・国立天文台 特任研究員)と名古屋大学大学院理学研究科の立原研悟 准教授をはじめとする国際共同研究チームは、地球から最も近い星の誕生現場の一つであるおうし座分子雲の観測を推進しています。アルマ望遠鏡を用いて同領域に存在する星の卵(分子雲コア)を多数観測した結果、中心に存在する水素分子の密度が100万個/cc程度を超えると自分自身の重力によって星へ進化する様子を精密に測定することに成功しました。さらにこの観測で、原始星が誕生した瞬間に近いと思われる天体を見出すことができました。これらの成果により、星誕生プロセスの理解が大きく進むと期待されます。                          
図:おうし座分子雲にある32個の分子雲コアの中心部をアルマ望遠鏡の一部であるアタカマ・コンパクト・アレイ(愛称「モリタアレイ」)により観測した結果(Tokuda et al.2020より一部改変)。濃いガスに含まれる塵からの電波を表す。色が濃いほど電波強度が強く、ガスの密度が高くなっていると考えられる。

[研究室の役割]
 おうし座分子雲の星の卵(分子雲コア)の研究は当研究室の大西利和教授(当時、名古屋大学の大学院生)ら1990年代から進めてきたテーマです。人間の一生で追うことができない分子雲コアの成長やその性質を探るためには、多数の天体を俯瞰することが必要であり、名古屋大学4m電波望遠鏡や国立天文台の野辺山45m望遠鏡などを用いて、おうし座領域をくまなく観測してきました (この領域を1つの国に見立ててそこに存在する星の卵を一斉に観測することから、ここでは「国勢調査」と呼ぶことにします)。当研究室では国立天文台のアルマ共同科学研究事業で2名の研究員(徳田氏とSarolta Zahorecz 氏)とともにアルマ望遠鏡を用いた銀河系やマゼラン雲などに存在する星の誕生現場の観測を推進していることもあり、過去に行ったような「国勢調査」をより高い解像度を実現できるアルマ望遠鏡を用いて行うことは自然な延長線上の研究として挙げられました。しかしながら、分子雲コアを拡大していくと比較的なめらかな構造をしており、シャープな天体を捉えることが得意なアルマ望遠鏡との相性があまり良くなかったのです。そこで徳田研究員らはこれまで研究室が行ってきたアルマ望遠鏡を用いた観測の経験(例えば、リンク1,リンク2 )を参考にしつつ、モリタアレイが分子雲コアの観測に最適であることを見出し、最新の国勢調査を実行しました。今回の研究成果は日本が開発した望遠鏡により実現できた集大成の1つだと言えます。
 また、日本国内の電波望遠鏡を使用した「国勢調査」も継続して行っており、当研究室が所有する1.85m電波望遠鏡や、野辺山45m望遠鏡を使った成果も本研究に生かされています(高嶋辰幸さんの2019年度修士論文)。      

 この観測成果は、Tokuda et al.およびFujishiro et al.として2020年8月7日16時(日本時間)出版の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」および、「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」にそれぞれ掲載されます。掲載論文は以下のリンクをご参照ください。

K. Tokuda et al. "FRagmentation and Evolution of Dense Cores Judged by ALMA (FREJA). I (Overview). Inner ~1000 au Structures of Prestellar/Protostellar Cores in Taurus"       
DOI番号:https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab9ca7
プレプリントサーバー(arXiv)URL:https://arxiv.org/abs/2006.06361

K. Fujishiro et al. “A Low-velocity Bipolar Outflow from a Deeply Embedded Object in Taurus Revealed by the Atacama Compact Array"
DOI番号:https://doi.org/10.3847/2041-8213/ab9ca8
プレプリントサーバー(arXiv)URL:https://arxiv.org/abs/2006.06378


観測結果の詳しい解説はこちらもご参照ください(日本語)

 

その他のリンク

大阪府立大学プレスリリース

名古屋大学プレスリリース