研究内容詳細DETAILS OF RESEARCH

星形成

 恒星は、太陽がそうであるように生命誕生のカギを握る最も重要な存在です。銀河は1000万個程度の恒星から出来ており、宇宙は無数の銀河によって形作られています。夜空には数えきれないほどの星々が輝いています。これらが全て恒星です。では、これら恒星は「いつ」、「どこで」、「どのように」、生まれるのでしょうか? 例えば私たちの太陽系を考えてみます。太陽系は恒星を1つしか持っておらず、太陽の大きさはG2クラス(スペクトル分類; 天文学での恒星の分類方法)で程よい放射を惑星に注いでいます。また最も近い隣の恒星までは4光年離れており、そこからの影響はありません。このような環境というのは、全宇宙の中で普遍的なことなのでしょうか。それとも私たちは珍しく特殊な環境の中に運良く生まれることが出来たのでしょうか。
  夜空に輝き可視光で観測できる恒星に対して、生まれたての恒星は赤外線で、恒星のもととなる星間ガスは電波でしか観測できません。また星間ガスは内部で恒星が生まれて燃え始めるまでは熱源が無いので非常に冷たく、電波で輝いているとは言え非常に暗いため、観測するのに時間がかかり、まだまだ多くの謎が残されたままです。例えば太陽くらいの大きさの小質量星(宇宙の中では太陽は小さい部類です)の場合は、星間ガスが自らの重力で寄せ集められ、途中、重力的な不安定性により断片化が起こったりしながらも、それぞれが収縮を始めて恒星が生まれるという、大枠については良く分かっています(自発的星形成)。しかし、出来上がる星の大きさは何によって決定付けられるのか、連星はなぜ作られるのか(恒星の観測から大量に見つかっている)、恒星の形成効率の問題(理論で予想される誕生率に比べて観測から得られた恒星の誕生率はとても低く、効率を悪くするプロセスの存在が予想される)、などが分かっていません。また、太陽よりも8倍以上大きいような恒星のことを大質量星と呼びます。大質量星に至っては、熱放射が非常に強く、一生の終わりに超新星と呼ばれる大爆発を起こす、など周辺に対して小質量星とは比べ物にならないほど大きな影響を与え、その影響力は銀河の形をも決めてしまうほどです。しかし、その形成過程は自発的星形成では現実的な時間で質量を集めきることができないなど、未だ議論の渦中にあります。磁場による不安定性や乱流による疎密の発生、分子雲どうしの衝突などの誘発的な説が提唱されていますが、どれが最も支配的な要因であるのか決定打に欠けており、観測による証拠の提示が待たれています。
  我々、星形成グループでは、観測的にこれら星形成に関する問題を明らかにすることを目的としています。特に、星間ガスを直接捕えることができる電波を使って観測することによって、星間ガスの分布、物理状態、化学進化などを追跡します。このために、国内外を問わず様々な電波望遠鏡を駆使して観測を行っています。また、独自の受信機や電波望遠鏡の開発も進めています。これに赤外線など他波長での観測から得られる結果を加味し、分子雲の形成・進化から星形成に至るまでを、総合的に描き出すことを目指します。

惑星大気の観測「SPART」

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系外銀河の観測

 系外銀河とは、私たちが住んでいる銀河系(天の川銀河)の外側の銀河のことを言います。近年 は観測技術の向上によって、様々な形の銀河が発見されており、特定の波長でよく光っている 銀河が存在していることも分かってきました。また、銀河同士が相互作用していたり、衝突し て出来た銀河もあり、物理的環境も様々です。ですが、銀河がどう形成されたか?といった事 はまだ多くの謎が存在しています。
 銀河形成の最も基本的なプロセスは星形成です。そこで、我々のグループは銀河での大局的 な星形成活動を明らかにすることで、銀河進化の謎を解明しようとしています。天文学では色々 な波長で観測が行われていますが、我々のグループが特に観測に用いる波長はミリ波・サブミ リ波帯という波長帯で、星形成を起こしているガスを観測することが出来ます。さらに赤外線 など、他波長の観測データと比較することによって、銀河の科学的性質を明らかにすることを 目標としています。
 近年ではミリ波・サブミリ波帯での高解像度・高感度観測が可能になり、2011 年からこの波 長帯での世界最高性能の干渉計方式望遠鏡ALMA が稼働し始め、新たな銀河の姿を描き出すこ とも期待されています。

◆ 系外銀河M83を可視光で見たとき(左:ハッブル宇宙望遠鏡で撮影)と
         電波で見たとき(右:Muraoka et al. 2009)のイメージ


    

1.85m電波望遠鏡

 1.85m電波望遠鏡は、大阪府立大学が中心となって野辺山(長野県南牧村; 標高1340m)に設置しているミリ波・サブミリ波電波望遠鏡です。ミリ波・サブミリ波とは、波の大きさが10mm~0.1mm程度と電波の中でも最も短く、赤外線に近い種類の電波です。ミリ波・サブミリ波を用いることで恒星を作る元となる星間ガスを観測することができます。1.85m望遠鏡は星間ガスの温度・密度といった物理状態を広域に渡って詳細に観測することに特化した、世界的に見ても非常にユニークな観測装置です。主な特徴として次の3つがあります。

  ・広い領域の観測をすることができる
  ・3種類の分子を同時に観測できる
  ・学生が中心となって、一から作り、運営している

1.85mの小口径

 望遠鏡で観測できる範囲は、アンテナの大きさで決まります。アンテナが大きいほど狭い領域を詳細に、逆にアンテナが小さければ広い領域を大まかに観測することができます。1.85m望遠鏡は3分角(3/60°)の視野を持っており、太陽系から3000光年程度までの比較的近い領域の分子雲を星形成が起きる一般的な大きさ(0.3光年)で分解できる程度の能力を持ちます。これにより、太陽系の近傍に分布している星形成領域に付随する分子雲を100平方度の広域に渡って全域をカバーすることができます。これまでの大口径アンテナを使った観測では、星形成領域の中でも特に活発な中心付近のみの観測などが頻繁に行われていましたが、1.85m望遠鏡によって、分子雲の全体をくまなく調査することが初めて可能になります。


3種類の分子輝線

 星の生まれる元となる分子雲は、その名の通り様々な星間ガスが分子として存在しています。その中でも最も多く存在しているのは水素分子ですが、水素分子は対称性が良いため比較的低温な分子雲の中からは放射を持ちません。そこで、水素分子の次に存在量が多く、対称性が悪いため低温でも回転遷移による放射をもつ一酸化炭素分子(CO)が分子雲観測には用いられます。COのなかでも、存在量の異なる12CO, 13COなどの同位体種や、エネルギー状態の異なる放射があり、これらの放射を複数組み合わせることで分子雲の温度や密度を調べることができます。1.85m 望遠鏡では、12CO, 13CO, C18OのJ=2-1と呼ばれるエネルギー状態を観測します。3種類を同時に観測できることが特徴で、これにより効率良く高精度に観測することが可能となります。


学生による立ち上げ

 望遠鏡の開発は学生が中心となって行っています。例えば、アンテナ主鏡の形状、ビーム伝送路の設計、高感度受信機の開発、天体トラッキングの為の駆動方式、観測ソフトウェアの開発、望遠鏡の科学性能評価、などが卒業論文や修士論文のテーマとして行われてきました。冬期の観測シーズンには24時間体制で学生が観測を進め、分子雲のデータを取得しています。


超伝導HEBミクサ素子の開発「THz実験」

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受信機開発

野辺山45m電波望遠鏡用100GHz帯新型受信機「FOREST」

  私たちは野辺山45m電波望遠鏡に搭載する新型受信機の開発を国立天文台と共同で行なっています。野辺山45m電波望遠鏡とは、直径45mのパラボラアンテナの付いた国内最大級の大きさの電波望遠鏡で、本研究室所有の1.85m電波望遠鏡と同じ長野県の野辺山にあります。観測シーズンには国内外の研究者が観測でしようし、これまで多くの観測実績を残してきました。
 現在開発を進めている新型受信機「FOREST」は「Four-beam Receiver System on the 45-m Telescope」の略で、100GHz帯をターゲットにする受信機です。この100GHz帯は星の材料の分子雲の成分のうち水素の次に多い一酸化炭素が放つ周波数で、多くの研究者が観測に使用する周波数です。FORESTは従来の100GHz帯受信機比べて観測効率を4倍に上げること(=観測時間を4分の1にすること)を目指しており、完成すればこれまで以上の範囲を一度に観測できたり、より多くの研究者が使用できることなどが期待されています。

◆ 観測範囲の違い

    観測範囲


◆ 「野辺山電波45m望遠鏡」「FOREST」「FORESTの鏡部分」(画像をクリックすると大きく表示)

野辺山電波45m望遠鏡   FOREST   FORESTの鏡部分

  

 

野辺山45m電波望遠鏡用40GHz帯新型受信機

 forestと同様に野辺山45m電波望遠鏡に搭載する40GHz帯新受信機の開発を国立天文台と共同で行っています。
  この受信機は偏波(電波の偏り)の強さを測定することによって、星形成に重要な役割を果たすと考えられている星間磁場を観測することを目的としています。星形成が実際に起こる分子雲コアの磁場強度の観測例はほ とんどなく、星形成の謎を紐解く新たなデータが得られることが期待されています。また、2ビーム受信や、両偏波受信を可能とするOMTの搭載など、観測効率を向上させる工夫を凝らした受信機で、45m電波望遠鏡に搭載さ れている40GHz帯受信機の次世代を担う一台になります。
 本受信機は2013年1月に試験観測のため、45m電波望遠鏡に搭載される予定です。

 

偏波分離装置

 私たちは、国内外を問わず様々な電波望遠鏡に搭載するための最高性能の受信装置を共同で開発しています。
 これまでにも、野辺山45m鏡、日立・高萩32m鏡をはじめとした多くの電波望遠鏡の受信機を開発してきました。
 こうした中近年では特に、最新鋭の開発環境が整ったことによって、非常に高性能な偏波分離装置の設計ができるようになり、学生が主となってこれらの開発を盛んに行っています。

 電波望遠鏡では、主鏡で集めた天体からの電波を、フィードアンテナで更に収束させ、それを伝送するための導波管という金属管で受信機まで誘導するのが普通です。
 この時誘導される電波は、フィードあるいは導波管の形状によって固有の伝搬状態(モード)を励起します。例えば導波管の断面が正方形であった場合には、水平方向・垂直方向の2つモードが主に励起します。
 偏波分離装置とは、こうして励起された垂直・水平の2方向のモードをそれぞれ個別に分離するための特別な装置です。

 この偏波分離装置は増幅器やミクサーより手前に設置するため、可能な限り装置によるロスを減らす必要があります。
 またモードの分離率も高ければ高いほど良いですが、これを実現することは容易ではありません。
 いかにしてこれらの性能を向上させるか、といったことを私たちは研究しているのです。

◆ 偏波分離装置のモード分離度向上の様子

縦軸は対数スケールですので、10違えば10倍、20違えば100倍の差となります。 すなわち、新型は220~230GHz帯域を中心に、分離度が10 ~ 100倍性能が向上しているのです。