○電波(ミリ波)望遠鏡で見た金環日食の連続撮影 (2012/5/21)

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・今回の観測の特長は?

 大阪府立大学の1.85m電波(ミリ波)望遠鏡を用いて金環日食の連続撮影に成功しました。ミリ波では新月の月も明るく観測できるので、太陽の上を月が動いていく様子を克明に捉えることができました。

・金環日食を肉眼(可視光)で観測すると?

 金環(皆既)日食は、太陽がぴったり月に隠される現象です。月自体は肉眼で見える可視光では光っていませんが、太陽の光を反射して明るく見えます。金環(皆既)日食の時は、月は新月の状態ですので、肉眼では見ることができません。ですから、太陽が黒く丸い影に隠されていくように見えるのです。

Annular Eclipse Optical by 大西利和@大阪府立大学金環日食観望会

・金環日食を電波(ミリ波)で観測すると?

 上で述べたように、月自体は可視光では光っていません(光って見えるのは太陽光の反射です)が、太陽は可視光で光り輝いています。これは、物体(天体)の温度の違いのためです。摂氏6000度弱の太陽は可視光で最も輝いていますが、おおよそ室温と同じ程度の月の表面は波長のより長い赤外線で最も輝いており、可視光では輝いていません。温度が高くなるとより波長の短い電磁波(可視光、赤外線、電波などの総称)で輝き始めるのです(黒体放射の原理)。より波長の長い電波では、天体の温度(絶対温度)と比例した強度の電波が放出されるため、太陽・月の両方を観測することができます。電波の中でも波長がセンチメートルより長くなると、太陽表面の活発さを捕らえることができるのですが、そのために太陽はその温度以上に非常に明るく観測されます。赤外線に最も近く、電波の中で最も波長の短いミリ波・サブミリ波で観測すると、太陽・月の温度に比例した電波強度が得られ、日食のように太陽・月が重なっているときでも(太陽と月の電波強度差が少ないので)太陽からの強い電波にあまり影響されず、月からの放射も同時に観測することができるのです。

1.85m電波望遠鏡で観測した金環日食の連続イメージの一部。青、水色、黄色、赤色の順番で温度が高くなっている。太陽は月と比較して温度が非常に高く強度が強く観測されるので、得られた強度の対数を取って色づけしています。

 

・ミリ波望遠鏡とは?

 ミリ波とは、波長が1~10ミリ程度の電波で、周波数は100GHz程度です。受信するために、パラボラ形状のアンテナを用います。衛星放送の電波の周波数は10GHz(波長3cm)程度、携帯電話の電波の周波数は1GHz(波長30cm)程度ですから、電波の中でも波長が非常に短く、一般のパラボラアンテナと比較して、望遠鏡や受信機も高精度なものが必要です。波長が短いほど、それに応じてパラボラ表面の精度が必要になり、受信機(検出器)も構造が細かく(波長程度以下)、非常に高精度な物が必要となり、その開発は非常に大変です。また、天体からのミリ波放射は一般的には非常に弱いので、受信機をマイナス270度まで冷却し、超伝導状態を利用した超高感度受信機を搭載する必要があります。ミリ波は、大気に含まれる水蒸気に吸収されてしまうので、空が雲に覆われているときは観測が難しくなります。

・今回観測に用いた1.85m電波望遠鏡とは?

 我々は、2004年から口径1.85m電波望遠鏡の製作を開始しました。望遠鏡の主鏡部(パラボラ部)や種々の部品は地元(大阪)の企業等とも共同で製作しています。大学生、大学院生が中心となり開発を進め、2009年4月にオリオン座星形成領域からの電波を初めて検出し、数々の試験観測を経て、2011年1月に本格的な天文観測を始めました。望遠鏡は電波を透過する膜で覆われていて、太陽光や風が望遠鏡に与える影響を最小限にとどめています。ALMA等の望遠鏡に用いられている最新の受信機技術を応用し、複数の電波を同時に高感度に観測することができる受信機を搭載しています。これらにより、星形成の母体である分子雲の広域探査が可能となりました。日本国内に設置された物では、大学が運営する現在唯一のミリ波・サブミリ波望遠鏡で、大学生・大学院生が運用の中心となり、天文研究だけではなく、教育的な効果も期待されています。

国立天文台野辺山宇宙電波観測所(長野県南牧村: 標高約1300m)に設置された1.85m電波望遠鏡。左側は電波透過膜のドームを取り外した状態。右はドームを取り付けた状態で、普段はこの状態で観測を行っている。

・今回の観測について

 観測した電波の波長は約230GHz(1.3mm)です。一般的に電波望遠鏡の受信素子数(デジタルカメラの画素数に対応する物)は、1個から数十個程度です。1.85m望遠鏡に搭載された受信機は非常に高性能ですが、素子数は1個です。そのため、今回の観測では、太陽を鉛筆でなぞるように左から右方向のスキャンを画面最下部から始めて、少しずつ上に向けてスキャンをずらしていくことにより、画像を得ることができます。一枚の画像は50回のスキャンの結果で、取得するのに10分程度の時間がかかります。観測の効率を上げるため、スキャンの方向に太陽・月が並ぶような角度で観測しましたので、実際の目で見た日食とは月の動く方向が逆になっています。180度回転すると、ほぼ目で見た月の動きになります(逆立ちして観測したのと同じです。。。)。観測は大阪府立大学からリモートで行い、大阪府立大学で行われた日食観望会でもデータが取得・解析されしだい、公開されていました。

・今回の観測の特長

 ミリ波望遠鏡はその開発の困難さから、世界を見てもそれほど数があるわけではありません。金環(皆既)日食を見ることができる地域にミリ波望遠鏡が設置されている可能性は非常に小さくなります。また、今回のような質の良いデータを得るためには、できる限り気温の低い、快晴の天気であることが重要です。また、太陽や月を含む全域を短時間で観測できる望遠鏡はさらに数が限られます。今回の金環日食の時間帯は野辺山地区では快晴に近く、5月下旬という悪条件にもかかわらず質の高い観測を行うことができました。また、望遠鏡自身も天体の高速・広域観測を目的としており、最小限のプログラム変更で、今回のような観測が可能となりました。これらの条件がそろい、いままでにない非常に貴重なデータを得ることができました。

・金環日食の連続写真

 それぞれの図の上に観測時の日本時間を表示しています。中心の赤い円盤状の天体が太陽。水色の月が左上から右下に移動する様子がよく分かります。

・ミリ波の写真と光の写真

 

 ほぼ同時刻に取られたミリ波のイメージと、可視光写真の比較。可視光写真で太陽がかけている部分に月が丸く覆っていることが分かります。

・連続写真のムービー

 上の連続写真をムービーにしました:動画へのリンク (MPEG4, WMV)

 

・その他、注意点

 最後の図以外は図をクリックすると大きな図が表示されます。本ホームページの図はご自由にお使い下さい。商用に用いる場合はご連絡下さい。クレジットとして、大阪府立大学宇宙物理学研究室と明記して下さい。

 

観測・データ解析:西村淳 (大学院生 D2)
文章:大西利和

連絡先: AnnularEclipse __at__ s.osakafu-u.ac.jp

・日食グラス作成イベント、日食観望会イベントについて

 日食前日には、「日食グラス作成イベント」を開催し、約1500名もの方が参加されました。当日には「日食観望会イベント」を開催し、600名程度の方が珍しい天体ショーを一目見ようと集まりました。同時に電波望遠鏡による観測結果をその場で解析・公開しました。詳しくはこのリンクをご覧下さい。

 

 

作成日:2012/5/25